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執筆者の写真茨城ねばる

複雑性悲嘆とICU

あれが予期悲嘆というものだろう、という経験がある。 私事で大変恐縮なのだが、妻がはじめて出産するときのことである。

里帰り出産を予定していた。

それまで平穏無事に過ごしていたのだが、突然『すごい量の出血をしている』と妻の母親から電話をもらった。


あわてた私は、妻の実家に向かうため、飛行場へと急いだ。

飛行場へ向かう最中、医療機関に到着した妻の母親から『どうやら常位胎盤早期剥離で出血量もかなり多く危険らしい』と再度電話を受けた。


飛行機の出発を待つ間、出産に関わる知識をたいして持ち合わせていない私はWeb上にある真実とも、そうでないともつかない情報を読みあさった。

悪い情報ばかりが目につく。見なければいいのに、やめることができない。

自分が医療者として説明するときには、たいして気にならなかったことも、自分の身になってみると持つ意味が変わる。


『もう会えないかもな・・・』と思いながら、携帯電話の電源を落とし乗り込んだ飛行機のなかでの、あの激しい動悸と不安、そして悲しみ。

今でも忘れられない。


幸にも、わたしの『予期悲嘆もどき』は一瞬であった。


これが長く続くICU患者の家族の心理的ストレスの大きさは、いかばかりであろうか。

しかも、不幸にも患者さんがお亡くなりになったとしたら。

そして、その悲しみが長く続いたとしたら。 実際に、ICUで不幸にもお亡くなりになられた患者の家族に複雑性悲嘆は多い。


ある研究ではICUにおいて死別した後6ヶ月の時点で、46%のキーパーソンに複雑性悲嘆が観察されている


Anderson, W.G., et al., Posttraumatic stress and complicated grief in family members of patients in the intensive care unit. Journal of general internal medicine, 2008. 23(11): p. 1871-1876.


悲嘆とは、みんなにおこる正常な反応だが、これが病的に長引き日常生活に影響が出るものを複雑性悲嘆と言いう。


こうした家族に、私たちは何かできるのだろうか・・・


例えば、海外ではMemory makingやMementoとい言うらしいのだが

思い出の品や記念品(写真と文章、ICU diaryなど)をお渡しする活動も行われているようである。


また、日本でも、遺族外来を行っている施設が存在するが

どれくらいの施設でどのような活動を行っているのか、その実情は不明である

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